凍星   >      >

Midsummer's night

「やっぱり夏の野外で飲む酒は最高ね!」
 泡の踊るグラスから口を離したベルナデットが高らかに言う。
「失礼ですけどお幾つでしたっけ?」
 ヤールが口の端で笑いながら豆を摘む。
 川沿いの風が吹き抜けるテラス席には、酒とつまみと軽食、そして甘味が無秩序に並べられていた。
「この後ミアキスさんたちと映画行くんだけどあなたたちも行く?」
 ベルナデットの問いにホットサンドを手にしたネリスが尋ねる。
「何を観るんですか?」
「夏至の奇祭に巻き込まれちゃう、ホラー?今日特別上映なの」
 ネリスがちら、と窺う素振りを見せるがそれを気に留める風もなくヤールが答えた。
「……俺たちは遠慮しますよ」
「そうね、今日は夜が短いものね」
 にっこり笑ってベルナデットがグラスを空けた。ネリスが何も言いかねてホットサンドを頬張ると、後から冷たいサングリアを流し込んだ。

 各々が二杯目を空けたところで席を立つと、永い日がようやく暮れようとしていた。揚々と去っていくベルナデットに手を振り返したネリスが向き直って尋ねる。
「ヤールさん、何かテイクアウトしていきます?」
「いや」
 歩き出しながらネリスが問う。
「映画、観たかったですか?」
「観たら「そういう」気が起こらなくなるやつだぞ、あれ」
「え……そんな…………?」
「……さっさと行くか、夜が短いしな」
 そう言って差し出された手に、ネリスがほんの少し笑ってそれを取る。最も長い昼が終わり、濃さを増していく夜の中へ、手を繋いだ二人が紛れていった。


2023.6.22

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